プロポリス propolis

1.はじめに

ヒトとミツバチの関係を紐解けば、その歴史は紀元前7,000年にも遡ります。即ち、洞窟壁画や古代エジプトのレリーフに描かれた採蜜風景から、当時の状況を読み取ることが出来ます。
加えて、その生産物の活用についての歴史も古く、貴重な甘味料としての利用の他、薬用としての活用も早くから行われてきました。
例えば、約3700年前の古代エジプトでは、ミイラの腐敗防止に使用されたとの記述があり、紀元前のヨーロッパの書物にも、「せきを止め、皮膚の炎症や神経の痛みを鎮め、治りにくい病を治す」との記載かあります。
また、 18~19世紀のポーア戦争では、負傷した兵士にワセリンと混ぜて手当てをしていたなどの記録も残っています。
更に、古来より南米では、インディオたちが切り傷や痛み止め、解熱、消毒などの薬として利用している事実もあります。

2.ミツバチの巣の強い抗菌作用

ミツバチは樹液などを集め、自身の唾液及び蜂蝋と混ぜてネバネバ状の物質を作ります。
これを巣に持ち帰り、巣箱の隙間を理めて塞ぎます。
巣に穴が開いたり、割れ目ができると、ミツバチは、このネバネバ状の物質を塗りつけ巣を補修するのです。
また、ミツバチは自分の体や巣の中を、ネバネバ状の物質を用いて殺菌や消毒も行っています。
巣の出入り口は、特に念入りにネバネバ状の物質が塗り込められており、外から帰ったミツバチは、入り口でネバネバ状の物質のシャワーを浴びることによって、体についた雑菌を殺菌しています。
一方、巣の内部温度は、微生物が繁殖しやすい温度であるにもかかわらず、巣の中においては細菌やウイルスなどの繁殖が無く、極めて清潔に保たれています。 加えて、巣に侵入した虫や小動物は、死亡しますが、このためには、ネバネバ状の物質の存在が欠かせないのです。 また、放置すればそれらの死骸は腐りますが、ミツバチはこれをネバネバ状の物質で塗り固め、腐敗を防いでいます。

3.プロポリスとは

ハチミツの生産物は、2系統に分類されます。即ち、植物に直接由来するグループには、ハチミツ、プロポリス、花粉などが含まれます。
一方、外分泌物を中心とするグループとしては、ローヤルゼリー、蜂蝋、蜂毒、フェロモン類などが挙げられます。
今回紹介するプロポリスは、先に述べたネバネバ状の物質であり、ハチが自分達の巣(polis)の門前(pro)の防衛のために生成する物質であることから、この名(propolis)で呼ばれています。
ミツバチは、プロポリスで巣箱の出入り口をコーティングし、その強力な殺菌、抗菌力で外部からの雑菌の侵入を防ぎ、巣の中での細菌の繁殖を防止しています。
ミツバチの巣から取れる膠状物質のプロポリスは、ヨーロッパを中心として古くから民間薬として、その抗菌作用と抗炎症作用は広く知られていました。
近代科学の普及と共に、その存在は殆ど忘れられていましたが、近年、化学薬品の安全性が問題視され始めたことを背景に、自然療法が見直される中、プロポリスの活用が再評価されつつあります。

日本でプロポリスが注目され始めたきっかけは、1985年の第30回国際養蜂会議において、感染症や関節炎などに対する、プロポリスの良好な治療成績が報告されたこととされます。
その後、1991年の第50回総会で、プロポリスから抗がん物質を発見したとの発表を契機に、健康食品として一般に広く知られるようになりました。 更に、プロポリスの有する抗菌作用、抗炎症作用、抗腫瘍作用、免疫賦活作用、解熱、鎮痛作用などの薬理作用が科学的に分析され、日本薬学会、日本癌学会、臨床免疫学会等で報告されています。
しかし、この様々プロポリスの多種多様な作用が、どの成分に起因しているかについては、全容解明には至っていません。
現在では、多糖類、糖タンパク質、フラボノイドなどの成分ではないかと推測されていますが、その詳細については、今後の研究成果が待たれます。
言い換えれば、これらが単一成分として取り出され、その作用を調査した報告は少ないのが現状です。
即ち、プロポリスに関しては、未知の部分があまりにも多く、本格的研究はこれからといえます。
私たちは、20年程前からプロポリスの腫瘍細胞のエネルギー代謝機構に関する研究を進めて来ました。

4.プロポリスの有効成分

いわゆる生薬や天然物は、その中に数多くの成分が混在しています。プロポリスの場合、ミツバチが様々な植物から樹脂を採取し、これと自らの分泌物を混合させる特有な事情があるため、その成分は極めて多種多様です。
ざっとみるだけでも、数百種類の成分が含まれていることがわかっています。
以下には、その一部を紹介しています。


5.プロポリスの作用

フラボノイドの作用

植物などに多く含まれる色素のことで、次の様な作用があります。

プロポリスの場合も、多くの漢方薬と同様、必ずしも、特定の成分だけが効いているというわけではありません。
おそらく、数種類の成分の相乗作用によって、従来の薬にはない効き目を表していると考えられます。

抗がん作用、放射線防護作用

最近では、プロポリスの抗がん作用も注目されています。
試験管内試験では、結腸がん、子宮がん、消化器がんなどのがん細胞の増殖抑制作用が報告されていいます。
また、チェルノブイリ原発事故に際しては、大量のプロポリスが、ブラジルからロシアに輸出されたとの報道もありました。
平成23年3月の、東日本大震災でも、放射能の汚染による事故に、プロポリスが活躍することを念じています。

6.プロポリスの応用

プロポリスは、民間薬として、魚の目、火傷、腫物、および各種炎症の治療薬として、塗布又は経口により投与されています。
また、特殊な例としては、肺の炎症に、吸入によって治療効果を上げたともいわれています。
これらの有効性から、東欧諸国を中心に、プロポリスを配合した新しい薬用化粧品の開発もなされています。
日本では、プロポリスを化粧品に配合した事例は、未だ少数です。
しかし、森林浴がブームとされることからも、消毒殺菌芳香剤としての応用価値が広がると考えます。
フランス、ドイツなどにおいては、化粧品では主にニキビや肌荒れ用のクリーム、石鹸の他、フケ、カユミをとるシャンプーなどにも配合され、数多く販売されています。 ロシアでは、火傷及び痛み止め用のエアゾール剤があります。


7.おわりに

以上、プロポリスの概要について述べてきました。
プロポリスは、ヒトとミツバチの長いつきあいの中で、比較的影の薄い素材でした。
1973年にノーベル賞を授けられたフリッシュ博士の研究では、距離と方向を示すミツバチのダンス、ローヤルゼリーや働きバチを不妊化させる物質の存在に基づき、ミツバチの生活と生理の合理性と効率性の高さが示されました。
このミツバチから得られるプロポリスでは、現在までに確認された広い応用範囲の他にも、すぐれた用途があることは、充分に推測できます。
また、成分と作用の関係は、未だ殆ど解明されていません。
故に、プロポリスは、更なる研究の進展により、これまでにない優れた用途が発見される余地があり、大きな可能性を秘めた物質と考えます。
従って、私自身、プロポリスが、将来、臨床的にも応用される可能性を期待する者の一人でもあります。

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